2021.05.06 メディア掲載 公益社団法人 日本マーケティング協会発行『MARKETING HORIZON』2021年4号の特集「消費対象は余計なモノより、使える権利」を担当

公益社団法人日本マーケティング協会発行の機関月刊誌『MARKETING HORIZON』2021年4号特集テーマ 「『なんとなく』欲望の行方」 への思いとして、弊社代表のツノダフミコが執筆を担当いたしました。

片付け後の甘過ぎる誓い

2021年のGWはどのような休日になるだろうか。国内旅行も既に予約の段階で昨年よりはかなり増えているようだが、いずれにしても家の中の不要品を処分したり、模様替えしたりする人も昨年同様多いに違いない※1。

そんな機運を一層盛り上げそうなブランドも3月に登場した。これまでの商品群とは一線を画するダイソーによる新業態「Standard Products」※2、生活者の立場からすれば、欲しいと思わせる商品。今後、「おうち市場」はさらに熱くなっていくだろう。連休明けや週末ごとに、用済み認定されたものたちが山のように出され、フリマアプリと各自治体の焼却炉も一層熱くなっていくに違いない。

さて、本棚やクロゼットの中、そして家の中がいくらかでもスッキリしたとき、多くの人が「もう余計なものを買うのはやめよう」と心に誓うはずだ。

実に甘過ぎる誓いである。

そもそも購入時に「余計なもの」と思って買う人はいない。何かを買うとき、その金額に関係なく多くの人はそれが必要だと思って買っている。本当のところ、どう見ても必要ではない場合においてでさえ、想像力豊かに都合良く理由をねつ造し、言い訳を手繰り寄せながら自らを洗脳して買っている。それが消費における大義であり、またインサイトに必要な大きな要素だ。

お金をつかいたいという本能は消えない

日本人の所得はこの30年で無残なほどに下降しているが、それでもわたしたちの「お金をつかいたい」という欲望が枯れることはない。その欲望は金額に因らない。「買いたい」「お金をつかいたい」気持ちは排除できない。なぜなら、これはヒトの本能のようなものだから。欲しいから買うのではなく、お金をつかいたいから欲しい理由を探し、つかうのだ。当然、各種ポイント類もこれに属する行為を生んでいる。

余計なものは要らない。もう家にものは持ち込み たくない。でも、何か買いたい。なんとなく何かが欲しい。なんとなくお金をつかいたい。仮に自分に対しての物欲が薄らいだとしても、人は何らかお金をつかいたくなってしまうものだ。クラウドファンディング浸透の一翼を担っているのもこうした気持ちではないか。賢く合理的で冷静な消費者ばかりだったら、想いへの共感で成り立つクラウドファンディングがこれほどまでに広がることはない。

モノと一緒に手放したいのはダメな自分

お金をつかうことはやめられないが、そうはいっても余計なものに囲まれている生活にわたしたちはいい加減、辟易としている。袖を通さないまま新たな季節を迎えた値札が付いた状態の衣類との再会、ページが開かれないまま情報の旬の終わりを迎えつつある書籍。次の流行色が来てしまった化粧品。それらを見つけたときの気まずさはこれまで幾度となく味わってきたことだ。

手放したいものの正体は、そういった気まずさであり、その気まずさを招いたダメな自分ではないのか。モノに罪はないが、自己嫌悪に陥る機会を生み出し続ける厄介者は減らしたい。とはいえ、ミニマリスト的なライフスタイルをしたいわけではない。新しい季節にはなんとなく気分がアガるお洋服を着て、お出かけしたい。陽ざしの色が変われば髪色も変えたいし、ネイル・チェンジもしたくなる。

「もう余計なものを買うのはやめよう」は実現困難な甘過ぎる誓いではあるが、モノを買わずして楽しむ手段は既に浸透しつつある。

お気に入りをひととき使える権利を買う

要するにわたしたちは新しい一着を所有したいのではなく、ひととき着て楽しめる機会が欲しいのだ。

そうした手段のひとつであるアパレルのサブスクリプション型サービスは既に多々あるが、大丸松坂屋は2021年3月より「AnotherADdress」※3という新規事業を開始した。百貨店で扱っているややハイエンド向けブランドの服や小物を月に3点選べ、月額11,800円(税込)というサービスだ。各々5桁6桁の参考価格の明記も嬉しい。既存の衣料品のサブスクではアイテムを指定できなかったり、ブランドや価格が不明であったりと、何が来るかわからない新しい自分発見のお楽しみ要素はあるものの、ハズレ率もそれなりにあった。しかし、「AnotherADdress」には好みとコスパのベストバランスをあれこれ迷う楽しさもある。

既にサービス開始前から話題と共に多くの登録者を集めているが、願わくは人気アイテムが集中し、借りたいものが借りられない状態になりませんように。

そして、店頭で試着してから「AnotherADdress」で借りる人がどうか少しでも増えますように。「AnotherADdress」が百貨店にとっても、一人ひとりにとっても新たな「入口」になっていくことを願っている。

本当のお気に入りを購入し、その所有者となり、慈しみ愛でながら、いくらかの時間と関係性を築いていくのは、いまやコレクションや推し活以外では弱くなっている。服やバッグ、アクセサリー等のファッションアイテムや書籍類、家電や家具も、ずっと所有したいのではなく、なんとなくお得感を味わいながら必要な期間のみ使えればいいのだ(このこと自体の是非は別問題としてあるが、本稿の趣旨ではないので割愛)。

安価でそこそこのものがふんだんに手に入る時代、同時にわたしたちはもうモノは増やしたくないとの空気感に包まれている。今月は使いたい・着たいけれど、来月はもう要らない。「賢い消費者」として、まさに「ユーザー」となった生活者たちがなんとなくお金を払っている対象は、 必要なときに必要なものを必要なだけ使うことのできる権利。過剰な機会購入で、サブスク貧乏も現れつつある。正解はひとつではない。今後のそうした機会のあり方はまだまだデザインしがいがある。

〈参照元〉
※1 「2020年のゴールデンウィークの過ごし方調査」
株式会社ビースタイルメディア
「全国47都道府県・働く主婦層にアンケート調査]
(有効回答数: 1020)」
https://part.shufu-job.jp/news/solution/12881/
※2 「スタンダードプロダクツ」
https://standardproducts.jp/
※3 「AnotherADdress」
https://www.anotheraddress.jp/

写真キャプション:
ファッションのサブスクリプションサービス「AnotherADdress」
(画像提供:株式会社大丸松坂屋百貨店)

ツノダ フミコ (つのだ ふみこ)

株式会社ウエーブプラネット代表 生活者調査・研究からのインサイト導出、コンセプト開発を多数ナビゲーション支援。チームのインサイト・ナレッジをデザインする協調設計技法Concept pyramidⓇの適用やインタビュー手法の研修なども手掛ける。生活者と言葉に丁寧に向き合う手法で暮らしの未来創造プロジェクトを手がけている。

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