2011.06.03 執筆コラム 「オウチ進出」による男たちの新・つながり

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2011年5号掲載

現在は実は「男の時代」だった?

近年、トレンドをリードしているのは男性がらみのネタが多きことにお気づきか? マーケティング業界の皆様なら既に耳にタコができるほど聞き慣れたはずの「草食系男子」「弁当男子」「イクメン」などニュータイプに男性の出現、AKB48のブレイクも手伝ってオタクを中心とした男性たちの聖地・秋葉原は、今や日本を代表するクールな街となっている。新たなトレンドリーダーやホットな街は男性発のものが増えているのだ。

かつて、1960年代生まれの私が、バブル時代以降に味わった「女の時代」は、いつの間にか終焉し、残念ながら現在は「男の時代」となっていたのだ。そして、「女の時代」に「女性の社会進出」によって家庭や家族に縛られていた女性が、社会や海外、街遊びや新たな文化とのつながりを獲得したように、「男の時代」となった今、男性たちは新しいつながりを手にしつつあるのだ。

「男性のオウチ進出」とは?

この「男の時代」の到来の大きな牽引力となったのが「男性のオウチ進出」である。

数年前から、弊社では男性たちのライフスタイルや価値観の変化を感じ、自主研究として1万人の意識調査を行うなど研究を続けてきた。その研究当初は「女性の社会進出」と対比する意図もあり「男性の家庭進出」と称していたが、“家庭”とすると増加を続ける単身の男性世帯をイメージできないデメリットがあった。加えて、新しい男性たちの変化が“家庭・家族”というソフト面だけではなく、滞在するハコという“家”としてのハード面の意味も含ませたく、あえて「オウチ進出」と呼ぶことにしたのだ。

バブル崩壊から約20年、日本経済がずっと停滞し低迷する間に、年功序列・終身雇用という日本の会社制度神話も崩壊し跡形もなくなった。男性たちは戦後から高度成長期を経てバブル期までライフスタイルとして馴染み続けてきた、“会社人間”や“仕事バカ”ではいられなくなったのだ。会社・仕事という太く固く容易には切れない締め縄の様なつながりが、ごく細くなり今にも切れてしまいそうな蜘蛛の糸にごとくになってしまった。そこで、男性たちが新たに手繰り寄せたのがソフト・ハード両面でのオウチとのつながりだったのだ。

ポジティブに過ごすオウチでの幸せ

日本経済的には暗黒の20年でも、オウチでの生活に関しての進化・充実ぶりは非常に明るく躍進したと言えまいか。“内向き”だの“巣ごもり”だの、マーケティングの情報を見聞きしていると、ネガティブな印象が強いが、自ら生活者の立場として見直せば実感できることがいくつもあるはずだ。

ハード面でいえば、デフレの影響もあるが関係企業の研究や努力のおかげで、センスが良く安価なインテリアや雑貨がどこでも買えるようになり、消臭効果の高い各種製品や掃除用洗剤や機器のお陰で、男性の一人暮らしでも、そう努力せずとも快適にオシャレに暮らせることが可能となった。

ソフト面ではインターネットの普及を筆頭に、ゲーム・DVDなどのデジタルAV機器・IT関連商品というインフラが整備されたお陰で、オウチにいても孤独を感じるどころか、コミュニティに積極的に参加できるようになったのだ。

男性たちが、これらのハード・ソフトの変化を受け入れる土壌として、1993年頃から必修化された中学・高校での家庭科学習の効果や、バブル時代を知らぬ世代特有の“見栄を張らない”脱力感、そして出世競争よりもボランティアがカッコいいとされる価値観を持っていたことも大きな要因だ。

アラサー前後、それ以下の若い世代の男性たちは、オウチとの新しいつながりを楽しみ満喫している。そして、未曾有の大惨事が現在進行形で続く現代日本で、そのつながりはますます強固なものになっていくはずである。大切なのは、彼らがオウチへと向かう気持ちが、会社や仕事が低迷しているからというネガティブなものではなく、「ラクで楽しいから」「節約できて無駄がない」などポジティブであると捕らえることである。そう考えれば、ここに新しいマーケティングのヒントが沢山眠っていることがわかってくるからだ。

最後に「男性のオウチ進出」によって大きく変化した、男性たちの結婚観については、ツノダ姉妹著『喜婚男と避婚男』(新潮新書)に詳しく記したので、ご興味を持たれた方は御一読いただければ幸いである。

また『MARKETING HORIZON5月号』には、下記の記事も掲載されています

弊社代表ツノダフミコがインタビュアーを担当し、阪本節郎氏(株式会社博報堂 エルダーナレッジ開発 新しい大人文化研究所 所長)、原田曜平氏(株式会社博報堂 若者生活研究室 アナリスト)との鼎談「世代に見る新しいつながりのカタチ」

中塚千恵氏(東京ガス株式会社) によるツノダ姉妹著『喜婚男と避婚男』(新潮新書)の書評