2008.01.01 執筆コラム 社会を変える「男の家庭進出」がはじまった

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2008年1号掲載

はじめに強調しておきたい。「男の家庭回帰」ではない。「家庭進出」、である。

かつて、バブル経済が弾け、雇用調整が行われた際に頻出した「家庭回帰」は、後ろ向きの現象だった。その上の世代が定年後に「濡れ落ち葉」などと揶揄されたことを受け、彼らを反面教師としつつ、同時に、将来を約束しなくなった企業における居場所の代わりを確保しておかなければ、という気持ちに支えられたものであった。

しかし、これから本格化する男の家庭進出は違う。自らの活動ステージとして積極的に家庭を選び取っていこう、というものだ。ちょうど、かつての女性たちが参政権を求めたり、男性と同様に働くことを志したりした「社会進出」のように、いま、男性たちが家庭に進出をはじめたのだ。

06年あたりから活発化している「新しいパパ」たちの動きもそのひとつであるが、家庭進出はパパたちだけにとどまらない。社会全体が女性化している大きな流れの中で、未既婚を問わず「仕事以外の時間」の価値が高まり、その流れとして「家庭を起点としたあれこれ」に関わることに積極的な男性が増えているのだ。

専業主婦がモーレツ・サラリーマンを支え、それにより高度経済成長期が実現したが、そうした企業都合の仕組み・枠組みは今や意味をなさない。男性たちは気付きはじめた。そうした仕組みによる恩恵を、もはや手にできないことに。建前よりも本音で生活する方が楽しそうだということに。女性ばかりが輝くのではなく、自分たちももっと輝けるのではないか、ということに。

「~でなければならない」という呪縛から解かれる男性や、そもそもそのような縛りを感じていない男性比率が高まっていくことは、さまざまなマクロ的視点から見ても疑いようがない。

女性の社会進出が住まいを、住設を、家電を、食品を、美容とファッションを、購買行動を、家事時間を、とにかく生活の何もかもを変化させたように、男の家庭進出も生活と社会を大きく変えていく。新たな自由と新たな責任を手にして、新しい生活をデザインしていく。

たとえば男性のテレワーカーが増加し、就業形態と住まいのあり方が目に見える形で多様化する。ケの家事はよりアウトソーシングや簡便化がすすみ、ハレの家事は一層趣味化する。さらにその中間に自己実現家事や社会貢献家事が強く出てくる。この2つは家事であるとともに、「社事」、即ち社会との繋がりが色濃いものとなる。

これらは一年ですぐに結果が出るものではない。また、男性すべてに一律に現れるものでもない。しかし、女性の社会進出よりも急速に進展し、世の中を変えていくだろう。

10年後をお楽しみに。