2007.07.01 執筆コラム 心は中年未満の40代

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2007年7号掲載

このところにわかに注目を浴びているターゲットが「男性」である。従来はもっぱら女性の消費に熱い視線が注がれていたが、フリーペーパー『R25』の隆盛や定年を迎え始めた団塊世代、と若い世代も上の世代も「消費者」としてようやくその存在が認められてきたようだ。

もちろん、一方ではネットカフェ難民や日雇い派遣といった、社会問題にまで発展している側面に位置しているのも男性が多いのだが、ここでは圧倒的なボリューム層であり、かつ、知られているようで、その実、知らないことも多い「サラリーマン」について、数回にわたりマクロ的なデータからそのインサイトに客観的に迫っていきたい。

ところで、定年退職が始まっているとはいえ、団塊世代も未だ現役サラリーマンである。しかし、彼らについてはあちらこちらで語られているので、ここでは団塊世代以外のサラリーマンに注目していくが、団塊世代を除いたとしても彼らを「サラリーマン」と一括りに扱うのはあまりに乱暴であろう。そこで価値観の断層が見られる35歳をひとつの区切りとして設け、-35と+35の2カテゴリーを所々で意識したい。

まず、サラリーマンといわれる人はどのくらいの数がいるのか。非農林業の役員を除く男性雇用者は2874万人。仮に正規職員・従業員をサラリーマンと定義すると約2362万人[※1]になるが、年々増えている男性の非正規雇用者(平成14年15.0%→平成18年17.9%[※1])の存在も軽視できない。

終身雇用制度や年功序列型賃金設定から成果主義への移行が増加しているとはいえ、年代別平均給与は50-54歳がもっとも高く663万円。もっとも低い20-24歳は267万円[※2]で、29歳以下では格差も拡大している[※3]。労働時間では30、40代の7割近くが一日10時間以上働いているのに対して、50代では5割強に落ち着く。こうしたお金と時間の関係からか、仕事への満足度がもっとも高いのが50代(top 2 boxで63.6%、ちなみに30、40代では同40%台)である[※4]。

このような傾向から一見すると、断層は35歳からではなく50歳を境に存在するかのようにも見えるが、世代ごとの価値観においては、価値観形成期の10代~社会人デビュー年齢にバブルを経験したのか、失われた10年のど真ん中にいたのか、により大きく違いが見られる。仕事に対しても、プライベートに対しても、35+のバブル経験組はあくまでもポジティブで、先行きに不安を感じたとしても根拠なく「なんとかなるでしょう」という思いがペースにある。

しかし、-34は社会に過度な期待をもたず、常に微熱程度の輪郭がはっきりしない不安を抱えている。はっきりしたネガティブではないが、無責任なポジティブさはない。

ただし、こうした傾向を彼ら自身が意識しているわけではない、彼らがどんなメディアや情報に反応し、どういう人付き合いをし、何に時間とお金を消費しているか、そこから初めて炙り出されることである。こうした点については、直接的な意識調査に期待しない方が読み間違いがないだろう。

部数を伸ばしている男性ファッション詩はいずれも35+の男性(特に増加傾向の未婚者)が対象だ(40代の既婚者が「恋に効く木金スーツ(『UOMO』)を着てもいいが、現実的には住宅ローンと教育費が重くのしかかっている[※3]」。実際、いわゆるサラリーマンの小遣い(いい大人に対して「小遣い」というのもどうかと思うが)の内訳でも、40代は特に他世代とは傾向が異なり、「この一年の生活は大変苦しかった」との回答率が、もっとも高いにも関わらず、趣味・雑誌や書籍・タバコ・喫茶などに対する消費が他世代より高い。また、50代では消費金額が高い飲み代が、40代では30代以上に低いのも特徴的である[※5]。

生活が苦しくても、自分のヨロコビにはお金と時間をかけたい。そう思うだけでなく、実際に実行しているのが「自分が真ん中」型の楽しみに生活のウエイトを置いている35+、特に昭和30年生まれである。仕事への満足度は低くても[※6]、基本は元気なのである。

実年齢は中年の粋に達していても、その意識と行動は中年未満。富裕層や女性マーケットだけが消費欲旺盛なのではない。未婚であっても以前のように肩身の狭い思いもしない。年齢によるライフステージの縛りは緩やかになっている。何しろ35-39歳では4人にひとり、40-44歳では5人にひとりが未婚なのだ[※7]。

それでは団塊ジュニアを含む-34のサラリーマンの姿はどのようなものなのか。次回は閉塞感ばかりが注目されている若い層の実像に注目したい。

※1 厚生労働省「労働力調査」2006(速報)
※2 国税庁「民間給与実態統計調査」2007
※3 総務省「全国消費実態調査」2004
※4 連合総研「第12回勤労者短観」2006
※5 GEコンシューマー・クレジット「サラリーマンの小遣い調査」2006
※6 (株)第一生命経済研究所「今後の生活に関するアンケート」2005
※7 総務省「国勢調査」2005