2016.02.29 執筆コラム 変わりゆく「家事劇場」の 表裏

執筆コラム

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2016年2号掲載

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一般的に働く女性の支援というと「家事・育児」とまとめて扱われる割には、実際の制度支援や助成策の表舞台は圧倒的に「育児」に偏っている。家事については各世帯で解決せよ、ということなのだろう。しかし、実は表舞台で語られにくい、そのことこそが問題ではないだろうか。ここでは、家事に関する調査結果から、当事者たちの気持ちとともに考えてみたい(文中の図表及び調査結果はすべて株式会社ウエーブプラネット「2016年家事調査」より)。

表舞台の変化:家事の「見せる化」

従来、家事はその名の通り、あくまでも家の中でのコトであった。「アンペイドワーク」や「シャドーワーク」とも呼ばれ、日陰の存在の労働として扱われていた。しかし、今や家事は表舞台でスポットライト浴びる存在になってきた。日々のお弁当や食事の写真、部屋のインテリアのみならず、片付けのBefore/Afterまで、かつてはその家の者しか知り得なかった家の中のコトが、いまやひとつのステイタスであるかのように衆人の目にさらす対象になっている。

実際に料理やインテリアなど家事のことをSNSに投稿している率をみると2割前後であるが、これは侮れない2割と見るべきであろう(ちなみにTOP2BOXでは、フルタイム女性24.0%、専業主婦17.8%。男性全体では24.3%)。

これはSNSの浸透による機会獲得に因るものであるが、むろんそれだけが要因ではない。SNSという舞台が巷に多く現れたが、それに先立ち、舞台に出るための準備が整ったからこそ「見せる化」が進んだのである。手頃な価格で家具やインテリアグッズ、テーブルウエアなどが全国のショッピングモールだけでなく、通販を通じて誰もが手に入るようになった。かつては雑誌程度しか見る機会のなかった他の人の家の中も、今ではたくさんのお手本が反面教師を含め手に入る。どうしていいか悩んだときには、すぐに質問に答えてくれる見知らぬサポーターも心強い。

何より、今まで自分自身も当たり前のこととして意識することなく淡々とこなしていた家の中のコトを舞台に載せた途端、「いいね」の拍手を浴びる存在になったのだ。承認欲求が満たされる、と文字にしてしまうと味気ないものになり、その舞台で得られる高揚感はなかなか伝わりにくいが、その拍手や掛け声の存在がどんなにか「やり甲斐」につながっていることか。見せることにより家の中のコトはスポットライトを浴びる存在になった。一度スポットライトを浴びるとその快感は忘れられないという。家事の「見せる化」はまだまだ止まらない。

ところで「見せにくい家事」の食器洗いや洗濯、掃除等については、「香り」を「見せる化」の代替として、こちらも舞台に上がっていることを付記しておく。

裏舞台の変化:家事扱いに悩む「ごみ捨て」問題

出勤前の会社員のお父さんがごみを出すシーンというのは時にサラリーマン川柳的に、時に笑いを伴う悲哀描くために用いられるが、実際のところどの程度の男性がごみ出しをしているのか。25-44歳の既婚男性に対する調査結果では、08年、16年ともに半数以上が「主に自分が担当している」と答えている。

しかも、08年では50.3%だった夫担当率が、16年では66.8%に伸びている。また、08年に5割を超えていた家事はごみ捨てのみであったが、16年では風呂掃除が51.3%と08年の36.5%からこちらも伸びを示している。

ちなみに、夫担当率で10ポイント以上の伸びを示した家事は他に伸び率順に「洗濯物を干す(13.1%→27.4%)」「掃除機かけ(14.4%→27.4%)」「洗濯(10.5%→22.6%)」「部屋の片付け(16.3%→28.1%)」「食事の後片付け、食器洗い(24.4%→35.9%)」「拭き掃除11.2%→22.6%」」「洗濯物を畳む、しまう(12.7%→24.0%)」「トイレ掃除(16.4%→27.2%)」「日常の買い物(12.0%→22.2%)」などがある。

もっとも「ごみ出し」を家事認定するか否かはしばしば話題になることである。また、「ごみ出しする夫は出世しない」という都市伝説や、一方では「トイレ掃除」は風水的にも最高な行いで運を呼び込むとか(事実、会社を挙げてトイレ掃除に取り組む企業もあると聞く)、なぜか家事そのものを離れたところで語られるが、本来は特別視するほどの行為ではないはずである。

夫自身も、もはや「ごみ出し」については「積極的にやりたい」「やるのは当たり前」「意識したことはない」で52.6%と自分事化している。ちなみに、妻の就業状態別で見たときに、妻が専業主婦であろうがフルタイムで働いていようが、夫担当率に大きな違いがなかったのも「ごみ出し」である。

裏舞台から表舞台に?:若いほど「家事好き」な男性

ところで、男性の家事担当率が上がったり、家事の「見せる化」が定着したりと話題は事欠かないが、そもそも「家事を好きですか」という問題がある。家事を好きかと聞かれて、どのような家事を思い浮かべて好きか嫌いか判断するのか、という前提条件を気にすることなく「家事、好き?」と聞かれたら、あなたはどのように答えるだろうか。

結果を見ると、女性よりも男性の方が「好き」率は高く、中でも男性25-29歳(既婚者である)は他よりも高かった。彼らは確かに他の世代の男性よりも家事を行っている。先述の「ごみ出し」についても、男性25-29歳の担当率は実に73.7%にのぼる。

女性の就業状況別に見るとどうであろうか。TOP2BOXでは専業主婦の好き率が最も高く54.0%(フルタイム41.5%)であるが、TOPBOXではフルタイム就業の女性の方が11.5%と、専業主婦の10.5%よりわずかに高くなっている。

男女ともに家事内容の質・量の関係と好き・嫌いがねじれを起こしているのかもしれないが、家事という行為に対する解決価値が決して「簡便化・時短化」だけではないことが浮かび上がってくる。

舞台の袖で:夫と妻、つくりたい舞台がまったく異なる

家事に限らず、夫婦間の目線はともすればお互い異なる方角に向きがちだが、それぞれがそれぞれの配偶者に、いったいどのようなことを望んでいるのだろうか。

妻から夫へ望むことの上位は「自分のことは自分でして欲しい、頼りすぎないで欲しい31.9%」「出世して欲しい29.5%」「とにかく外で働いて稼いできて欲しい28.2%」「家事を無理してまですることはない、できる範囲でいい28.2%」というものである。

一方、夫から妻に望むことの上位は「家事を無理してまですることはない、できる範囲でいい26.7%」「疲れて家に帰る自分をやさしく癒やして欲しい23.6%」「現状で満足。何も望むことはない21.9%」というものである。

他の項目を見ても、おしなべて夫は基本的に、妻の現状に満足し、理解を示していることがうかがえる。年齢別に見るとこの傾向は若いほど強く出ている。年齢と共に妻に癒やしを求める率が低下するのは、年齢効果とも言われている「あきらめ」が働いているのだろうか。いずれにしても静かなやさしさを感じることができる。

一方、妻の目線はただひたすらに現実を見据えている。やはり男はロマンチスト、女はリアリストなのだろうか。「とにかく外で稼いできてね、家事は二の次でいいから」ということに尽きるのではないか。稼いできてくれたら「無理してまで家事はしなくていいよ」となるのだ。そして、(それが無理なら)自分のことは自分でできるようになってくださいね(それだけでもずいぶんと助かるから)、という声が聞こえてきそうである。夫の出世に関しては、年齢と共にやはりあきらめが働くのか、女性25-29歳37.0%であるのに対し、女性40-44歳では21.6%まで下がる。が、稼ぎに対しては同29.7%と29.6%と大差ない。

家事を一筋縄で語ることは難しく、また、課題解決の施策を講じることも容易ではない。今回ここで見てきたことの他に、男性以上に女性自身が「どちらかといえば家事は女性が行う方が良い(男性49.8%、女性58.4%)」と思っていることや、「経済的にゆとりがあっても家事を家族以外に任せたくない(男性59.6%、女性57.5%)」など、家事の物理的な軽減措置だけでは語りきれない側面や、感情労働としての側面が、家事には非常に強くある。一つひとつの家事行為をつまびらかに解明していくことも商品企画には必要ではあるが、家事全体を覆う社会的通年や影響、そして男女それぞれの家事に向き合う気持ちの構造に注目して、真の課題を解決していきたい。 (文中の調査はすべて株式会社ウエーブプラネット調べ。2016年1月実施。首都圏・京阪神都市部25-44歳の既婚男女1936名)