公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2014年4号掲載
恋愛をするのに年齢制限はない。いくつになっても、ときめく心をとめることはできない、に違いない。しかし。それにしても…。あまりにも露骨な狂い咲き状態ではないか、と思わずにはいられない週刊誌の特集の数々。「ああ、あのことか」とピンと来た方も多いと思うが、一時期は社会問題化するほど、いかに死ぬまで性的行為を楽しむかを煽っているのだが、ニーズがなければそのような特集も続かないわけで、反発する層がいた代わりに、それなりに一定の固定ファンでもいた証である。ともあれ、いくつになっても恋愛や異性とのお付き合いは大きな関心事なのだ。
中高年の婚活≒終活、就活
婚活という視点では、本誌2012年11号において「『入籍よりもパートナー探し』中高年の婚活事情」の記事において、シニア世代の婚活のありようとして、婚活や恋愛という言葉よりも温度が低そうな感情や事情に支えられた「お相手探し」の現状を記した。主な傾向を再掲する。
その特徴のひとつは経済合理性の追求。ひとりよりも二人で生活する方が、収入(年金)が二人分になることで支出比率が下がり、一緒に暮らした方がお得だから結婚(同居)したいというもの。特に働いていない女性の場合は、より一層こうした経済的要素は重視される。今や死語となったが、まさに永久就職のチャンス、人生最後の就活ともいえる。
そして、男性の側で多い理由が孤立死不安の軽減。一般的に先に旅立つことが多い男性だからこそ、最期は妻に看取られたいという願望がある。もっともこうした願望をストレートに出す人は当然ながら敬遠されるらしいが、男性にとってはまさに終活への助走、切実な想いを内に秘めている人は多いらしい。
一方、働いている女性においては、定年後の余暇時間をともに過ごす相手が欲しい、というのが動機として大きい。働いている(いた)がゆえに経済的に男性を当てにする必要がないため、結婚相手というよりも心情的にはもう少し軽めの交際相手を求める傾向が強い。また、男女ともに離死別経験者の場合は、相続問題や家族間の心情的問題から入籍へのこだわりは低い傾向にある。
ときめきは第一印象に宿る
中高年の婚活事情をこうして文字にすると、いずれも恋愛特有のときめきが希薄であるかのように感じられるが、出会いの初期段階にときめきが存在しなければその先に進めないことは年齢を問わず健在である。ゆえに、出会いの時においては第一印象、見た目が重視されることとなる。これはリアルな婚活パーティにおいても、ネットでの出会い系・お見合い系のサイトにおける写真選びにおいても同様だ。
結婚相談所の方によれば、男性の中には外見や服装が清潔感に欠けていたり、だらしなかったり、という人がしばしばいるらしく、すぐさま結婚コンサルタントによる改善アドバイスが入るらしい。男は中身で勝負、のつもりか、外見や服装を最低限整えることが女性に対するエチケットやマナーであるとの認識が欠如しているそうだ。
サイトの掲載写真においても「どうしてわざわざこの写真を選んだのか…」と理解に苦しむ人は、明らかに男性に多い。見た目の善し悪しに対する判断ではなく、好みか否か、つまり生理的に受け容れられるか否か、という判断は最初に下されるがゆえに、過剰に盛る必要はないものの、やはり礼儀は必要だろう。
成長する「ときめき支援市場」
こうした点は言うまでもなく女性に一日の長がある。たとえ自撮り写真を掲載するにしても、写し方・映り方にこだわったり、好感度の高そうな服やメイクにしたり、婚活パーティで出会うかもしれない誰かのために、思い切り気分がアガる装いでうきうきと出かけていく。
そもそも、実利が伴わないときめきの場に対しても女性は気合いを入れて臨むものだ。たとえば、以前インタビューした中には、大好きなサザンオールスターズの桑田佳祐に会うため(=コンサートに行くことを指す)に、何ヶ月も前からダイエットに励み、エステに通い、プチ整形をするという女性や、氷川きよしのコンサートに備えて大型団扇とともに洋服を新調し、美容院へ行ってスタンバイするシニア女性などもいた。女性はときめきをより楽しむための投資を厭わないのだ。世代特性を考えれば、これからの中高年世代のときめき消費がますます増していくことは想像に難くない。
結婚相談所やお見合いサイトなどのマッチング市場は、より安全性を高めながら、かつカジュアルになりながら成長していく。と同時に、男性の場合は、まずはエントリー資格として身だしなみレベルを高めるための消費(グルーミング、服飾・小物類、それらに対するプロのアドバイス)が、次ステップとして出会いをより豊かにする趣味に対するコト消費のウエイトが増していくだろう。
女性の場合は自分自身のときめき仕様を高める手間暇消費(カラダの内側外側からアプローチする美容、自分らしさをひと目で表現するファッション、場合によりプロによる写真撮影)が拡大していく。
シニア世代だからといって「ゆったりまったり」ではないのだ。ICTの発達と浸透により出会い支援の環境インフラはますます充実していく。だからこそ、自己アピールは重要性を増し、出会いの質を高めるための市場はさらに熱くなっていくだろう。そして、人生折り返し地点を過ぎているからこそ、切実さもそこには宿っていくのだ。