2012.12.10 執筆コラム View of marriage「入籍よりもパートナー探し」中高年の婚活事情

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2012年11号掲載

中高年の婚活事情について以下に記していくに際し、まったくの他人事ではない立場に筆者自身がいることもあり、その内情や自分の市場価値がおおいに気になるところではあるが、まずは近年の傾向を述べる前にちょっと想像してみて欲しい。あなたは中高年の婚活事情と聞いてどのような状況を思い描くだろうか。何歳くらいでどのような身なりの人が何を求めて婚活しているだろうか。

40代より軽やかな 60、70 代の婚活世代

将来不安の一因としてしばしば登場する生涯未婚率(50歳の時点で一度も結婚したことがない人の割合)。2010 年で男性20.1%、女性10.5%。1980年においてはそれぞれ2.6%、4.5%であったことから、いかに急増しているかがわかる(平成22年国勢調査)。誰もが結婚することがもはや当たり前ではなくなり、結婚を望むのであれば強い意志と計画を持って取り組むべきというメッセージが込められた「婚活」という単語も定着した昨今であるが、中高年層においては異なる様相がうかがえる。

たとえば65歳以上の婚姻数は2000年と2010年の比較において1.6倍に増えている(人口動態調査)。団塊世代の影響は当然大きいが、団塊以外のその前後世代においてもその傾向は変わらない。また、ここでの婚姻は男女ともに初婚より再婚が圧倒的に多い。結婚そのものへのハードルが経験者の方が低いことがわかる。

さらに、60~79歳の独身者の3人に1人に交際相手がいる、という(ある意味衝撃的な)データもかつて『クローズアップ現代』で放映されたが、今どきの30、40代より軽やかなのでは、と感じるほどだ。

現に40代未婚者に対する結婚の意志を見ると、「早く結婚したい」が40代では男性18.0%、女性16.7%となり、「今は考えられない」とする40代男性28.7%、同女性36.3%、「一生結婚したくない」とする割合も40代男女ともに1 割以上を占める(2011年 オーネット)。また、40代では親との同居者も多く、「親だけで暮らす状況が不安」「親の介護が必要」という自身以外の理由が女性では特に強く現れている(2011年 アットホーム)。

交際相手がいない人においても、「交際相手が欲しくない理由」としては性年代問わず「ひとりが楽しいから」が大勢を占め、40代男性では「他に時間を割きたい」「他にお金を使いたい」という以上に「結婚したいと思わない」46.2%が10ポイント以上高く、同女性においても「結婚したいと思わない」と「他に時間を割きたい」がほぼ同じ5 割弱で並ぶ(2011 年 オーネット)。未婚状態の生活スタイルがそれなりに身につき不自由を感じていない40代がいる一方、既に子どもも独立した世代では2回目の結婚、人生後半戦のパートナー選びが展開されているのだ。

人口動態調査より

熟年離婚への目覚めと 3.11

データからは先述のような一端がうかがえるが、果たして中高年の婚活現場はどのような状況であるのか。 35歳以上の結婚相談所としての老舗である「茜会」チーフカウンセラー立松清江氏によると、やはり団塊世代を中心に入会者増の傾向は続いているという。特に会員数増加のきっかけと推測されるものがこれまでに2つあったという。

ひとつは 2005 年に放映されたドラマ「熟年離婚」。定年を迎える夫(渡哲也)に対し、妻(松坂慶子)が離婚を申し出るという団塊世代を意識して制作された連続ドラマであった。高齢社会を迎え、まだまだ先が長い毎日の暮らしが、実は本人の覚悟ひとつでリセットできることに気付いた人がそれだけいたのかもしれない。そして、もう一つが昨年の3.11の大震災である。こちらは年齢に関わらず「ひとりでは心細い」「ひとりではさびしい」という本能的な心の声に動かされたものである。いずれにしても、初婚であろうと再婚であろうと、現状の暮らしを変えたいのだという強い意志や覚悟は共通であろう。

働く女性は結婚に経済的依存を求めない

ただし、婚活といえども中高年においては入籍を伴う結婚を希望するわけではなく、いわゆる事実婚や、それよりもさらにゆるやかな交際相手としてのパートナーを求める人が多いのが特徴である。これは子ども(といっても多くの場合、成人しているが)の影響や相続問題などが関係する。と同時に、実は女性の経済的な側面が影響している。

茜会の場合、女性会員においては仕事を持っている人の方が多い。経済的に既に自立している女性は、「これからの人生の後半(自分の定年後)をさらに豊かに過ごすためのパートナー」との出会いを求めるという。子どもも独立し、彼女自身の定年もまもなく、というときに、改めて「これからはゆっくり趣味や好きな時間を過ごしたい」と思うらしい。一緒に旅行に行ったり、共通の趣味の時間を過ごしたりする相手が欲しいな、と思うと同時に、それは同居相手と言うより交際相手としての存在でも構わないらしい(むしろ、その方が好ましいとも思う)。

また、男性においても、従来からの強いニーズである「身の回りの世話をして欲しい」に応えてくれる相手を求める一方で、経済的にすべてを背負うことを重荷に思い、仕事を持っている女性を希望する会員も多いという。主たる収入が年金の場合も「ひとり分の年金ではできることも限られているが、二人分の年金なら生活の可能性も拡がる」という合理性も働くようで、このあたりは最近の若い世代の結婚事情にも通じるものだ。

中高年世代は旧来型価値観や生活通年(男性が経済を担い、女性が家事を担う)が強いのでは、という思い込みを覆す現実がそこにはある。しかし、世代が異なっても同じ時代を生きていることに変わりはなく、社会環境 ・ 生活環境の変化による影響を等しく受けていることを考えれば、こうした傾向もうなずける。

現実的にあり得ない条件の「普通の人」と結婚して専業主婦になることを希望する今どきの女子大生よりは、よほど現実的であり、しかも実現の可能性も高いに違いない。人生の、あるいは生活のすべてを結婚に求めるわけではなく、結婚や恋愛のいいとこ取りだけできればいい、と割り切っているところこそが年の功なのだろうか。

ちなみに、余談ではあるが身なり・身だしなみは非常に重要とのこと。女性会員は学歴・収入・おしゃれ度のいずれも高く、実年齢より若く見える人も多いがゆえに、パーティ形式のイベントでは女性が年上のカップルも誕生らしい。美魔女熱はますます拡がっていくだろう。かたや男性会員の中には思わず身だしなみについてアドバイスしたくなる人もいるらしい。中高年男性向けの強壮剤の新聞広告が朝から大きく目につく毎日だが、まずは外見力を磨く方を優先した方がいいかもしれない。いずれにしても、人生を楽しむことに素直に貪欲である先輩方のパワーは衰え知らずだ。

参考資料:総務省「平成22年国勢調査」、厚生労働省「人口動態調査」、㈱オーネット「20代・30代・40代未婚男性 / 女性結婚意識調査」(2011年)、アットホーム㈱「親と暮らす30~40代男女の「住まい」等に関する意識調査」(2011年)