2009.11.01 執筆コラム 心意気あふれる再開発「丸の内ブリックスクエア」

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2009年11号掲載

歴史資産を活かした再開発

今年9月3日にオープンした丸の内の新しい顔が「丸の内パークビルディング」内の商業施設「丸の内ブリックスクエア」(約2000坪、店舗数36)である。三菱地所による再開発第2ステージの最初のお披露目である。

「ブリックスクエア」という名の由来となっている、明治・大正期における創業当時の姿を忠実に再現した三菱一番館における赤煉瓦による歴史を表現する顔と、丸の内パークビルディングのアールを活かした外観が美しい地上34階建ての先進を表現する顔との二面性ある施設となっている。

こうした2つの要素は、コンセプトはもちろん、施設内のテナント構成や空間演出においても表現され、丸の内で培ってきた歴史の強みを存分に活用している。

丸の内そのもののありたい姿を体現した広場

丸の内における三菱地所だからこそできたであろうと思わせるのは、施設内の広場の贅沢な空間である。赤煉瓦の背景を引き立てる豊かな緑による広場は、人々を引きつけるスペースである。

多くのベンチを配することで都市の中でのちょっとしたくつろぎを提供するだけでなく、ささやかな散歩気分が味わえる小径により、緩やかな動きの時間も創出している。

最近の商業施設では緑や水といった自然の要素をうまく取り込む傾向が強いが、ブリックスクエアにおける緑の密度の高さは「本気度」を十分に感じさせると同時に、三菱地所だからこその思い切りと余裕を漂わせているものである。

暮らしの中でアクセントとなるストーリーが商品

商業施設としては小規模であるが、話題には事欠かない。 世界初出店で話題の「エシレ・メゾン デュ ブール」はフランスの高級バター「エシレ」の専門店。エシレバター50%使用のクロワッサン(399円)は連日の行列で、すぐに売り切れ。店頭に売り切れ告知の紙が貼られても行列が途絶えることはない。

日本初出店となるバルセロナのチョコレート専門店「カカオ サンパカ」、日本初の路面店となるライフスタイル フレグランスの「ジョー マローン」など、さまざまなメディアで既にお馴染みだろう。

中でもセレクトリサイクルショップの「PASS THE BATON」は出品者のプロフィールとストーリー付きでリサイクル品を販売することで注目されている。決して広くはない店内では、年配の女性客も若いスタッフと会話を楽しみながら気持ちの良い時間を過ごしていた。

こうしたテナントが提供する価値は単なる高品質でもなく、ラグジュアリーなアイコンでもない。ひとつひとつのモノやブランドが持つストーリーであったり、自分の手に届くまでのプロセス価値であったりする。モノとして消費されないストーリーの価値である。

ここ「丸の内ブリックスクエア」は、広場で感じることのできる光や風の気持ちよさを都市の中や生活の中に届けたい、というデベロッパーの信念と確たるコンセプト表現の成果を体感することができる貴重な場所である。