2009.07.01 執筆コラム ライフコース・マーケティング ―結婚、出産、仕事の選択をたどって女性消費の深層を読み解く― (青木幸弘+女性のライフコース研究会編 日本経済新聞出版社)

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2009年7号掲載

表紙タイトルの下に「結婚、出産、仕事の選択をたどって女性消費の深層を読み解く」とある通り、単に女性のライフコースを研究しているだけでなく、「女性消費」と結び付けている点が非常にリアルで生々しく、この本の大きな魅力にもなっている。

発行が2008年7月なので既にお読みの方も多いことだろう。できれば一日も早く多くのマーケティング関係者の方々に目を通して頂きたいと思う。著されている骨子の部分は女性の従来からのライフコース研究であるが、何よりも女性のライフコース自体が非常に時代の変化の影響を受けやすい点、さらに実感を促す豊富な事例に満ちている点から「早く目を通したもの勝ち」の一冊である。これからの女性市場に取り組まれる方々なら、この本を常に片手に持ちながら戦略をあれこれ考えていくことをお奨めする。格段にミスリードが減るだろう。

女性は男性以上に「あったかもしれないもうひとつの人生」にとらわれがちだ。だから常に今の自分を認めるための仕掛けや大儀を必要としている。そうした他人には視られたくない女性心理に対し、著者達は冷静な態度で容赦なく踏み込んでくる。こうした目線と態度こそマーケティングの真骨頂だと日々感じているものの、うっかり自分事として「そうそう、そうなのよ」などと思いながら読んでいくと傷を負うはめになる。

女性が選択する「自分を認めるための仕掛けや大儀」は、もちろん消費に直結しており、それは潜在・顕在両面の市場及びビジネスの存在を意味している。この書籍の発行後の世界的金融危機の影響や刻々と変化する福祉制度などの社会的環境等、たえず流動的なのが世の中であり、誰一人としてその影響から逃げられない。今の10代~20代前半に接しているとジェンダーロールの希薄化や、人生の選択に対する強くはない気負いを実感することが多い。

だからこそ人生の選択肢が多様な女性(いや、これからは男性も含め)に向けた市場を検討する際には、ここに記されているようなしっかりしたフレームワークを持つ必要があるのだ。