2009.07.01 執筆コラム 女の子のドキドキとワクワクFOREVER21

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2009年7号掲載

トレンドをいち早く取り入れ、手頃な価格でファッションを提供する、いわゆるファストファッション。銀座、渋谷、新宿とそれぞれ話題には事欠かないが、なんといっても今は原宿がその代表エリアになっている。

もともと竹下通りもラフォーレ原宿もファストファッションの集積のような場所ではあったが、さらにグローバルなメガストアが半径100m内でしのぎを削り合うと、日頃原宿に来ないような人までをも「とりあえず行っておかないと」という気にさせる強力なパワーが生まれる。

もはやここ原宿では老舗の感すら漂い、やたらとベビーカー率の高いGAP(11月にはJR原宿駅前に旗艦店オープン予定)をはじめ、ZARA、TOPSHOP、そして昨年のH&M上陸の熱もさめやらぬ間に、4月29日には原宿にLAからFOREVER21がH&M原宿店のすぐ隣にオープンし、まさに「熱い夏」を迎えている。

ここでは一番の新顔・FOREVER21について触れてみよう。

お隣のH&Mも相変わらずの混みようではあるが、入場制限は一段落。一方、FOREVER21は竹下通りを越えた先、工事中の元パレフランス跡地前に行列を作り、入場整理券を受け取らなければ店に入れない。ドアマンではなく制服を着た警備員がメガホン片手に入口で人を捌いている。

メンズものも若干扱っているものの、そのほとんどがレディースものゆえに、FOREVER21はどこもとっても何を見ても圧倒的に女の子仕様になっている。使えるアイテムより、ドキドキ・ワクワクするアイテムであり、見やすく探しやすい陳列より、いくつものおもちゃ箱から宝探しをするような時間リッチな人々のための陳列である。

「永遠の21歳」をコンセプトにしているだけに、FOREVER21は女の子の好きなモノがたくさん詰まっていることがアドレナリン放出に大きな役割を果たしている。キラキラした照明やゆったりとしたドレープ、まさにお店の中にいるだけでもカジュアルにお姫様気分を味わえるが、さらにこれまでの日常にはなかったような色遣いとデザインのアイテムが数百円代からで頭の先から爪先まで(あらゆる洋服はもちろんアクセサリーやバッグやベルト、靴に至るまで)揃うのである。

そのうえ開店景気に見舞われた人の波である。聖地を訪れた巡礼者のごとく、「せっかくだからなんか買っておく?」とお友達同士でいやが上にも手ぶらでは店を出られない気分になるのだろう。ラフォーレ原宿一帯からJR原宿駅、渋谷、表参道の各方面に伸びる道の黄色いビニールバッグを手にした女性の多さといったら、まるでFOREVER21がサンプリングをしているかのようであった。H&Mのバッグも十分に目を惹く存在であるが、今の原宿ではFOREVER21のイエローバッグが席巻している。また、「永遠の21歳」ゆえにイエローバッグを持っている女性の年齢層は非常に幅広く、10代はもちろん、喜々として戦利品の感想を楽しげにおしゃべりしている40代の母+中高生の息子という組合せもちらちら見られた。

ファストファッションというひと言では片付けられないほど、その内容も個々のブランド価値は多岐にわたっている。日本での開店ラッシュや話題が集中した時期がたまたま昨年秋の金融危機以降と重なったため、「トレンドがとびきり安く」という文脈で語られることが多いが、それぞれのブランドは日本上陸以前・金融危機以前に各国で確たるポジションを築いている。「流行りモノをお手頃価格で」という点だけが魅力ではない。

買い手である顧客のファッション偏差値が上がり、価格に振り回されないオシャレの楽しみ方をしっかり身に付けているという環境変化は無視できない。

余談ではあるが、バブル世代のわたくし自身はユニクロでは大人買いしているにもかかわらず、FOREVER21では次から次へとあれこれ手にしたものの、結局何一つ買うことができなかった。入店までの我慢、混雑する店内での我慢、サイズを探す我慢、試着やレジ前で待つ我慢などを乗り越える気力と、キラキラとひらひらに満ちた「かわいい」を使いこなすセンスと自信に欠ける自分を恨めしく思いつつ、もはやFOREVER21の適齢期越えをしてしまったことをしんみりと実感しながら店を出た。なんだか非常に損をしたような気になるものだ。

やがて季節が一巡し、「とりあえず買い」や「せっかく買い」の波が引いたとき、それでもキラキラし続けられるか、真のFOREVER21な女の子たちの聖地になるのか。半径100mの原宿エリアからはまだまだ目が離せそうにない。