2006.05.01 執筆コラム 「オンナ力点」知らざれば、商品開発するべからず

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2006年5号掲載

「うちのカテゴリーはしょせん特売価格でしか選ばれないから…」と嘆く商品開発担当者は少なくない。特売でも選ばれなくなる前に、いま一度、消費者理解と主婦幻想について考えたい。

女性有配偶者の有職率47.2%、30代女性の既婚率73.8%、30代有職女性平日の炊事・掃除・洗濯時間96分などなど…。現在の女性を映し出す鏡のひとつであるデータのレイヤーから像を描いていく作業は実に楽しく、興味深い。しかし、数字だけでターゲットである女性像を描いてしまうと、彼女たちからも数字(価格)だけでしか選ばれかねない落とし穴が潜んでいる。

もちろん、しっかりした定量・定性調査は行われているのだろうが、これだけ女性の生き方や生活の多様化が浸透しているにもかかわらず、いまだに「時間に追われる働く主婦向けの~」といったステレオタイプ的な切り口でターゲットを捉えようとする傾向が幅をきかせている。アパレルや美容などの、きわめてパーソナルなセンスや感性に訴求する領域においては、さすがにこのような視点では商売にならないので、こうした乱暴な括り方は見られないが、従来のマス市場対応型商品の分野においては、まだまだ不健全なほどに健在だ。

むろん、「時間に追われる忙しい主婦」を「効率追求型」や「家事のメリハリ使い分け型」「コツコツ節約型」、「手作り志向」「LOHAS志向」「ちゃっかり演出志向」などなど、その表現は異なれど、家事への取り組み方や生活価値でいくつかのタイプに分けて、マーケティング活動が行われていることは事実である。

確かにかつては、こうした家事意識・実態のタイプ分けでも十分対応できていたかもしれない。しかし、ここ数年の女性の多様な意識や価値観の急激な顕在化ぶり(そう、潜在的にはずっと以前からあった)はどうだろう。30、40代女性向け雑誌では、毎号特集で「これからが本当に美しい女性の年齢」「もう一度自分と向き合う」と、ことさら過剰に煽っている(としか思えない)。広告主を考えれば、そういう表現になるのは自明の理であるが、それでもそれらに確実に影響を受けている既婚女性たちが存在していることは見逃せない。主婦はもはや「主婦」からとっくに降りているのだ。

家事を合理的に行おうが、上手に惣菜を使いこなそうが、それらは家事側面における「部分」でしかなく、それで彼女たちの価値観や志向を語ってしまうのはあまりにお手軽過ぎる。

家事をするわたし、子供と遊ぶわたし、夫と出かけるわたし、仕事をするわたし…。その「わたし」は妻や母や社会人であるまえに、紛れもなく「ひとりの女性」である。そして、女性であることを意識させている(目覚めさせた)のは、「女性への目覚め」による経済効果に期待している市場そのものである。旅行やアパレル、宝飾、美容業界だけに、その旨味を独占させておくのはあまりにももったいない。飲食料品や日雑品等の市場も十分にその恩恵に与らなければ、企業としての力量を疑われてしまうだろう。

そこで提言したいのが「オンナ力点」である。ひとりの女性として、何を志し、何に憧れ、何に満足し、どのような生活をおくっていきたいと思っているのか。オンナ力点を理解することが、その作用点、即ち購買に繋がっていく。

彼女たちが買っているものは、たとえ198円の洗剤であろうが、98,000円のバッグであろうが、「商品」である。製品ではない。商品は「機能価値」「情報価値」「情緒価値」のバランスが商品価値を決定する。どんなに特売価格でも「これを買ってしまったらオンナとしての自分が許せない」と感じれば購入に至らないし、また、どんなに旬なブランドでも「わたしを表現するブランドではない」と思えば手を出さない。

「特売価格だけで選ばれているから」と嘆く前に、まだまだ明らかにしていくべきことは山ほどある。マーケッターにとっては、この上なくわくわくする仕事だ。

団塊世代を追いかけることだけに追われていては、次の波に乗り遅れてしまう。弊社シニア女性調査で明らかになった「オンナ力点」、これはその娘世代にも影響を与えている。「オンナ力点」の時代による変化も追いかけ、各担当者が十分コントロールしていかなければ、いつまでたっても特売の呪縛からは逃れることはできない。